別に意味なんて無い
特に行くとこが無くて暇だった
ただ、それだけ
ピン ポーン
ドア前のインターホンを押すと中からドタドタ言う音が聞こえてくる
もう少し静かに動けないものかと思いながら玄関前で待っていると
ガチャガチャ バタン!
大きな音を立てて目の前のドアが開かれた
「じゅ~り~!!!」
ドアが開くと同時に飛び出してきたひょろ長い生物に抱きしめられる
抱きしめてくる腕の力に胸が締め付けられてろくに息も出来ない
目の前の胸を力の限り押し返した俺は呼吸を整えてから口を開いた
「...放さねえと...帰ンぞ」
「おお!」
手を離した槌谷は万歳をするような格好でにへらと顔を崩す
そして俺の顔を窺うように首を傾げると
「ゴメンね」
身体に似つかわしくない態度で可愛く謝ってきた
ホントは文句の一つや二つや三つ言いたかったが、玄関前と言うこともあって睨むだけで勘弁してやる
そんな俺の様子にシュンとしてしまった槌谷はこちらを見たまま動こうとしない
俺は槌谷に分かるほどの大きなため息を吐いて
「どうぞ、とか言えねえのかよ」
不機嫌な態度を前面に押し出しそう言った
槌谷は慌てながら俺の手を引き『どぞどうぞ~!!』と玄関の中に引き入れる
別に手は引かなくてもいいんだけどな...そう思いながらもこれ以上言うと槌谷のテンションがまた下がるのは確実だから止めておいた
手を離そうともせず、足も止めようとしない槌谷に、俺は慌てて靴を脱いで玄関を上がる
ズンズン廊下を歩いていく槌谷の後ろを着いていく
いつもなら途中にある槌谷の部屋に入るのに、今日は廊下の突き当たりにあるリビングに案内された
槌谷は俺をソファに座らせると『ちょっと待っててね』と言って違う部屋に消えて行った
今まで槌谷の家には何度か来たことはあったが、アイツの部屋にしか入ったことはなかった俺は行儀が悪いと思いながらも辺りをキョロキョロ見渡した
あ...あれって
リビングの隅に大小さまざまなトロフィーが隠すように置かれているのに気がついた
ソファから立ち上がり近づいて見るとそれはピカピカに光っている
毎日磨かれているのかトロフィーには塵一つ付いていなかった
大切にしてるんだろうな...
しゃがみ込んでみていると急に上から影が落ちてきて
「じゅりえ、それ欲しいのん?」
そんな言葉と共に筋肉が程よく付いた腕に抱きしめられた
さっきの苦しい抱擁とは違い優しく抱きしめてくる腕の温かさに身を預けたくなる
胸の前で組まれた腕にそっと手を置いた俺は槌谷に顔が見えないように俯いた
「いらねえよ...おまえの大切なもんだろ」
「う~ん...大切だけど...」
「...だけど、なんだよ」
「一番は前嶋だから...」
「.........」
「前嶋にだったら全部あげるよ」
甘い声で囁かれた言葉に胸がドキンと跳ねる
時々コイツは普段からは想像も付かないほど甘い声を出すから困るんだ
俯いていて良かった...
抱きしめられているのが後ろからで良かった...と
熱くなっていく顔を隠しながらホッと小さく息を吐いた
槌谷の家にやってきたのはただの気まぐれ
最初は本当に理由なんてなかった...はず
でも
もしかしたら
俺はこんな時間を過ごしたかったのかもしれない
甘い 甘い 全てが蕩けそうなヒトトキ
**
なんとなく
槌主!甘いの目指してみたのに挫折(汗)
それにしてもやっぱり乙女だ!!乙女脱出出来ません(泣)